豊かなのに幸せになれない、なぜ？（幸福度ナンバー１のデンマークでも・・・）

世界一幸せといわれるデンマークでも・・・。



先日、12月26日のTV番組サンデーモーニングで、「豊かなのに幸せになれない、なぜ？」という年末特集があった。今年日本で起こった問題から、世界的に抱える問題まで大きく広げて社会に問いかけた、非常に見ごたえのある特集だったと思う。


そのなかで、アメリカとともに、デンマークの現状が紹介されていた。
（ほんの少しだけではあるが、事前取材のお手伝いをさせていただいたので、どんな番組になったか興味深く見せていただいた。）


デンマークの部分の内容をごくごく簡単にまとめると以下の通り。


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高福祉でさまざまな社会サービスが無料で受けられる国デンマーク、そして国民の幸福度が世界一高いといわれるデンマークででも、問題を抱えている。 たとえば、ホームレスが多数いること、自殺が多いこと、麻薬常習者が多いこと。 高齢者介護は充実しており、家族に頼らなくても社会サービスとしてケアを受けられるが、家族とのつながりが希薄で、高齢者の多くは孤独を抱えている。 高福祉の恩恵を受けているはずの国民の心が満たされていないのはなぜだろうか・・・。

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という内容だった。


高齢者については、確かに事実で、デンマークでは多くの高齢者が孤独感をもちながら日々生活している。
子どもと同居する高齢者はほとんどおらず、特に配偶者と死別すると、その後に孤独に苛まれる高齢者が多い。


具体的に高齢者がどんな状況でどんな思いを抱えているのか？については、この番組でも少し紹介されていたが、拙訳『高齢者の孤独』（ビアギト・マスン，ピーダ・オーレスン編，2008年，新評論）でも紹介させていただいた。
同書では、孤独を抱える高齢者たち自らが、自分の孤独について赤裸々に語っている。







サンデーモーニングに出演していたコメンテーターの１人が、「人々が役割を喪失していることが背景にある」と言われていたが、これは示唆に富んだコメントだと思う。


『高齢者の孤独』においても、自らの役割喪失ゆえに、つらく切実な孤独を感じている高齢者の姿が浮き彫りになっている。


たとえば、仕事を退職した後、自分の能力が社会でまったく必要とされなくなったことによって自分の生きる意味や存在価値を見失ってしまった高齢者。


自分が職場からいなくなっても、まったく何の支障もない。自分の知識や経験を求められることがなくなってしまう。


それが孤独につながってしまう。


しかし、この「役割」は、労働市場における仕事のうえでの「役割」に限らない。
家族のなかでの「役割」、友人関係のなかでの「役割」、地域における「役割」。


故 外山義氏は、住み慣れた地域から施設へと移ることによって生命力が萎んですっかり変わり果ててしまう高齢者たちは、地域から施設に移る際にいくつかの落差を経験するとしている。


それは、

「空間」の落差
「時間」の落差
「規則」の落差
「言葉」の落差

であるが、さらに大きな落差として「役割の喪失」を挙げている。


「88歳になる遠藤さんは、朝ごとに孫が学校に行くべき時間が近づくと、それを知らせることが習慣になっている。孫のほうもいつのころからか、それを目安にするようになっている。」


「遠藤さんは、たとえただそこに寝ているだけというだけであっても、日に数人、声を掛けに来る地域の昔馴染みがいて、枕元でお茶を飲みながら油を売っていく。」


「私たち人間は、ただ人から「受ける」だけでは生きていけないし、生きがいを感じることもできない。一方的に人から与えられるだけでは、人は生きている手ごたえを感ずることができない。私たち人間は誰でも、何かの「お役に立てる」とうれしく感ずる動物なのであり、そうした手ごたえの日常的な積み重ねが「生きがい感」を生んでいるのである。」


（外山 義，『自宅でない在宅』，医学書院，2003年）


とりわけ、家族関係が希薄になっているといわれるデンマーク。
インタビューを受けたデンマークの研究者が、番組で以下のように言っていた。


「デンマークではほとんどの家庭が共働きであり、忙しすぎることが背景にあります。」


高齢者の子どもたちは、自分たちの仕事や家庭のことに忙しすぎて、高齢の親と関わりをもつ時間をとることがなかなかできない。


こうした状況を受けて、デンマークでは、高齢者が血縁を超えた新たな関係を結びなおそうとする動きがある。
これについては今後のブログ記事で紹介したいと思う。