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桜の力、言葉の力 [雑感]

桜の季節になると思い出す・・・小学生の時に読んだ文章。

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桜で染めたほんわりとしたピンクのスカーフやハンカチがお店に並んでいると、つい目を奪われてしまう。
桜の草木染めで使う桜色は、桜の花びらではなく、桜の木の皮から取り出すということは、小学生の時に通っていた塾のテキストに載っていた文章で知った。

その文章は、ずっと心の中に残っていたのだが、誰が書いたものなのかも、どの本から引用されたものかも、わからなかった。ふと思い立ってネット上の情報等を手がかりに探してみると、やっと引用元が判明!

大岡真 著 『詩・ことば・人間』 (1985年,講談社学術文庫) という本だった。
さっそく入手したので、以下、該当箇所を引用する。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++  京都の嵯峨に住む染色家、志村ふくみさんの仕事場で話していた折、志村さんがなんとも美しい桜色に染まった糸で織った着物を見せてくれた。そのピンクは、淡いようでいて、しかも燃えるような強さを内に秘め、はなやかでしかも深く落ち着いている色だった。その美しさは目と心を吸いこむように感じられた。 「この色は何から取り出したんですか」 「桜からです」  と志村さんは答えた。素人の気安さで、私はすぐに桜の色びらを煮詰めて色を取り出したものだろうと思った。実際は、これは桜の皮から取り出した色なのだった。あの黒っぽいゴツゴツした桜の皮から、この美しいピンクの色がとれるのだという。志村さんは続けてこう教えてくれた。この桜色は、一年中どの季節でもとれるわけではない。桜の花が咲く直前のころ、山の桜の皮をもらってきて染めると、こんな上気したような、えもいわれぬ色が取り出せるのだ、と。  私はその話を聞いて、体が一瞬ゆらぐような不思議な感じにおそわれた。春先、もうまもなく花となって咲き出ようとしている桜の木が、花びらだけでなく、木全体で懸命になって最上のピンクの色になろうとしている姿が、私の脳裡にゆらめいたからである。花びらのピンクは、幹のピンクであり、樹皮のピンクであり、樹液のピンクであった。桜は全身で春のピンクに色づいていて、花びらはそれらのピンクが、ほんの尖端だけ姿を出したものにすぎなかった。
(大岡真 『詩・ことば・人間』 1985年,講談社学術文庫) 
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


これを読んだ小学生の時、目に見えないところで一生懸命、美しいピンク色をつくりだそうとしている桜の秘めた力、ひたむきさに感動した。

それ以来毎年、桜の開花間近になると、最高の美しさで花開くために準備を進める桜の木の内部はどうなっているのだろう、、、と想像力を膨らませていた。

私が小学生のときに見た文章はこの箇所だけ引用されていたのだが、あらためてこの本を読むと、著者は、この文章を次のように締めくくっている。

つまり、このようなことは言葉の世界と同じで、言葉の一語一語は桜の花びら1枚1枚である。幹は一見別の色をしているが、本当は全身で花びらの色を生み出そうとしている。一語一語の花びらはそのような幹を背後に背負っている。それを念頭において言葉を考える必要がある。 そういう態度で言葉のなかで生きていこうとするときに、一語一語のささやかな言葉の大きな意味が実感されてくるのではないか。それが言葉の力の端的な証明である、と。



さて、今日は近所でお花見。 我が家が毎年行っている場所なのだが、「緑のデザイン賞 緑化大賞」を受賞したという、小さな川沿いのエリア。 桜の下でお弁当を食べてのーんびり。子供たちはおおはしゃぎで走り回る。 お花見している人たちはみんな笑顔でゆったりと気持ちのよい春のひとときを楽しんでいる。 みんなを引きつけて、笑顔にさせる桜の力ってやっぱりスゴイ。
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